一生懸命働いた先に何がある??

一生懸命に働くことで死につながってしまう社会ってどういうことでしょう。
一生懸命に働くことの先にあるものは悲しいものではなく、もっと輝かしい明るい豊かなものであって欲しい。
でも、今も、死につながりかねない危うい線の上で一生懸命に働いている人が、たくさんいる。

そのことを私はとても恐ろしく思います。
もちろん私自身も他人事ではなく、もしかしたらその線上にいたかもしれないし、今後またその線に乗ってしまうことがあるかもしれない。そう、気づかぬうちに。

電通事件から考える「働くこととは…」

東京大学を卒業し電通に入社した新入女性社員の自殺は、平成26年10月に三田労働基準監督署が労災と認定しました。
電通は、平成12年の最高裁でも、平成3年に自ら命を絶った入社2年目男性社員の遺族の訴えにより、裁判の被告(電通事件とよばれています)となり、今回と似たような問題をしっかりと認識していたはずでした。

平成3年に命を絶った彼について、判決文には次のように書かれています。

「健康でスポーツが得意、明朗快活、素直で責任感があり、また物事に取り組むに当たっては粘り強くいわゆる完璧主義の傾向もあった」と多くの企業が求める男子学生そのもの。
入社後も、しっかりと業務を遂行し、直属の上司からも部長からも高い評価を得ている。

彼は平成2年4月に電通に入社しました。
意欲的、積極的に仕事をして、上司や業務上の関係者から好意的に受け入れられていたそうです。
そうですよね、人気企業に入社できて、いや別に入社した会社が人気企業でなくても、新しい環境で「よし!これから頑張るぞ!!」と一生懸命に取り組むって、ごくごく普通のことですよね。

そんな彼は、入社して3~4か月が経つ頃には、早くも午前様の帰宅が多くなります。それでも入社半年後くらいまでは遅くとも出勤した翌日の午前4時、5時ころには帰宅していたものの、それ以降は帰宅できない日も出てきます。
そんな働き方をしている我が子を見て、一緒に暮らしている両親は「有給休暇」を取るように勧めました。

この「有給休暇」
みなさんは取れていますか。
会社によって、部署によって、個人によって、その取得率は大きく異なるものであると感じています。
数十日の有給休暇を持ちつつも、風邪で休んだ時に有休振替にすることはあるものの、またたくさんたまった有給休暇を翌年に繰り越すという方が多いのではないでしょうか。
大企業・上場企業などでは、有給休暇の取得を推進する動きもあり、積極的に使うことができるようにもなりつつあるのかもしれません。
また、有給休暇のうち数日間の取得を義務化するという法改正が行われる可能性があることなども話題にあがっています。
しかしながら、日本の多くの中小企業では、今はまだ、大量の有給休暇を持ちながら、職場に一人の事務社員だから日次業務のために休めない、管理職だから休めない、と週末だけでは抜け切れない疲労の蓄積に耐えながら、カレンダー上の連休を待ち望んでいる、そんな多くの人の頑張りの上になりたっているのが現状でしょう。

彼は休むように勧めてくれた両親に次のように答えたそうです。

「自分が休んでしまうと代わりの者がいない、かえって後で自分が苦しむことになる、休暇を取りたい旨を上司にいったことがあるが、上司からは仕事は大丈夫なのかと言われており、取りにくい」

そのセリフ私も言ったことがある!という人も多いはず。
この魔の呪文「休んだ後が大変だから」「代わりがいないから休めない」と私は民間企業で働いていたとき何度も言っていた記憶があります。
確かに休んだ後は机の上に書類がバカみたいに積まれていたり、電話メモがたくさん机に貼ってあったり(昔はメールがなかったから…)と仕事が溜まって大変なこともありました。
でも、休んだって別になんとかなるんですね。
とはいっても、新人だと有給休暇を申請することはやはり難しい。
だけど、徹夜続きや十何連勤なんておかしな働き方になっちゃったら、どこかで風邪をひいたことにでもして1日でも休んで欲しいです。

休まずに一生懸命に頑張って働き続けた彼は、頑張っている甲斐あって平成3年の1月頃には業務の7割程度を単独で遂行できるようになりました。
そして上司たちからも引き続き高い評価を得ています。
平成3年、入社2年目になり、初夏のころ彼は出勤したまま帰らない日が多くなり、早朝7時ころに帰宅して、1時間後にはまた家を出るという状況になっていたそうです。

さて、彼は入社前「健康でスポーツが得意、明朗快活、素直で責任感があり、また物事に取り組むに当たっては粘り強くいわゆる完璧主義の傾向もある」青年でした。
それが、この頃には「元気がなく、暗い感じで、うつうつとし、顔色が悪く、目の焦点も定まっていない」ことがあるようになりました。
もちろんそんな彼の変化を直属の上司は気づいていました。

そして平成3年8月、彼は8月3日~5日まで旅行に出かけます。
気分転換を図りたかったのかもしれませせん。
でも、すでに彼の精神面はボロボロだったのではないでしょうか。
ボロボロになって疲れ果てた心身は束の間の旅行や息抜きだけでは回復することは不可能です。
この旅行から帰った後、彼はまた休みなく毎日働きます。

そして、一生懸命に取り組んでいた大きなイベントを終えた翌日、自宅で命を絶ちました。

こうして、十数年前の電通事件がどんな事件だったのか、判決文から読み解いてみると、新卒学生の就職人気企業ランキング上位である「電通」だから特別に起こっている問題ではなく、彼に起こった出来事はどこにでもあり、誰でも彼と同じように死を選びかねない状況にあるのかもしれないと怖さを感じます。

平成12年のこの裁判では、自殺した彼の上司二人は、彼が恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を取らなかったことについて過失があるとしています。
自分の部下や同僚の様子が変わったと感じたら、そのまま突き進み続けるのではなく、必ず立ち止まってみてください。声をかけ誰かが話を聴く時間を持つ、少し休みを取らせる、仕事の負担を減らす、「忙しい」を言い訳に何らかのアクションを取らずにいることは、1人の命を奪うことに繋がるかもしれないという認識を頭の片隅に置いといてください。

昨秋行われた「過労死等防止対策推進シンポジウム」で、 高橋まつりさんのお母様は涙ながらに私たちにこう伝えてくださいました。
「命より大切な仕事はありません」と。

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